ぐるりな訪問看護師もいいもんだ

人生に関わる仕事はおもしろい

おんかぁかぁかびさんまいえいそわか

いつも椅子で居眠りしてる

 

「行こうか」

 

気温にあわせて上着をはおり
季節と気分で帽子を選ぶ


机の上の鍵をポケットに入れ
「お賽銭は?」と声をかけると財布を探す


小さな玄関で靴を選び
靴べらを使ってゆっくりと履く
段差に気を付けながら玄関を出て
ゆっくり振り向いて
ポケットに入れた鍵で扉を閉める


空をあおぎながら深呼吸
ゆっくり歩き始めると
近所の人が声をかけてくる


「良いねぇ、いっつも若い子と一緒で」
「いやははは~(  ^∀^)」
「いや、たいして若くないんですけどね(私)」


財布に10円玉が無いときは
通りがかりの八百屋で柿を買ったり
自動販売機でジュースを選んだり

 


そして目的地に到着
お辞儀をして10円をお賽銭箱に放って

 

 

「おんかぁかぁかびさんまいえいそわか
おんかぁかぁかびさんまいえいそわか…」

 

 

手を合わせ、すらすらと7回唱える
隣のお地蔵さんにも
反対側のお地蔵さんにも
ついでに水もかける

 

 

「おんかぁかぁかびさんまいえいそわか
おんかぁかぁかびさんまいえいそわか…」

 

 

どういう意味なのか聞いてみたら
ニッコリ笑って「そういや、知らないなぁ~」


何をお願いしたのか聞いてみたら
「毎日生かしてくれてありがとうございますってな。ついでに明日もお願いしますってな(笑)」

 

私は最近かかわり始めたばかりだけど
以前は一人で朝晩参っていたんだって


危ないからって言われてから段々出なくなって

今は看護師さんが来たときだけなんだって

 

 

帰りは小刻み歩行になっちゃうから
ちょっと支えつつ
ちょっと声をかけつつ

 

正味20分程度のお散歩
お地蔵さんがそこにいるから行くんだよ


どんな専門職よりも
お地蔵さんが彼の日常を支えてる


「危ないから」が無かったら

今ごろ転んで寝たきりになってたかもしれないし

転ばないで毎日一人で行けてたかもしれない


どっちだろうとよかったんだって

 

 

「おんかぁかぁかびさんまいえいそわか」

 

 

とっても大切な言葉を教えてもらった
お地蔵さん、すげぇ…

 

このお話は

もうかれこれ5年以上前のことです。

今もこの業界は変わっていないと感じます。

もしかしたら変わらないどころか、良くない方に舵を切っているんじゃないかと思うこともしばしばです。

 

週に14回行けてたお参りが、1回行けるかどうか。

そこに選択の自由はありません。

自由がないということは自立を奪われていることになるんじゃないかと、思うんです。


もちろん危険と隣り合わせだけど、危険と引き換えに自由を手離してしまった。

それも、本人の意思ではなく。

 

「安全」に疑いを持たない家族や専門職。

「良かれと思って」から始まる生活の中のボタンの掛け違い。


この方はその日その日をシンプルに完結して生きているように思えます。

だから全てを受け入れる。

とても穏やか。

 


かかわる人達が「守ってあげている」ようでいて

実は彼が「やらせてあげている」ように見える。


私たちは、お地蔵さんの手のひらで飛び回る孫悟空のようだなぁと。